教育ってなんだ!? 世界と日本の違いから考える。(その2)
前回、世界と日本の教育の違いについて纏めた記事をご紹介しましたが、今回は、教育制度や教育費などに焦点を当てて、再度教育に関する内容をご紹介します。
☑ 世界トップクラスの教育制度、シンガポール
国際学力調査(PISA)は15歳児を対象に、科学的リテラシー、読解力、数学的リテラシーの3分野について、3年毎に調査を行っています。OECD加盟35カ国をおいて、2015年にいずれも1位を獲得したのがシンガポールです。
そんなシンガポールの教育制度は少し複雑なかたちを取っています。小学校6年・中学校4年・高校2年が原則ですが、進むコースによって修了年限は異なります。中でも義務教育とされているのは基本的に小学校の6年間のみで、それもなんと義務教育の制度が定められたのが2003年というから驚きです。
シンガポールの教育が重点を置いているのは、バイリンガル教育です。英語以外に母語の授業があり、シンガポーリアンのほとんどが2か国語を話すことができます。
また、義務教育終了時の小学校6年生のときに修了試験を受けなければならないというのも特徴的です。
☑ 世界の教育制度
〇アメリカ
戦後の日本がアメリカの教育制度を模倣したため、アメリカの学校制度と日本の学校制度には比較的似た部分が多いのですが、日本との大きな違いは、就学年齢・高校卒業資格などが州によって異なり、また各学区の権限が非常に大きく、学区によって始業日・終業日・休校日・年間授業時間、中学校や高等学校の進級学年の区切り、カリキュラムの内容、飛び級などの方針が異なる点です。
アメリカでの学年の数え方は、小学校1年から12年まで、中学・高校になっても1年から数えなおさず順に数えます。教育課程に日本の幼稚園(kindergarten)の年長組に当たる1年間を含めるのが一般的であるため、通常は初等・中等教育を称してK-12(幼稚園から12年生まで)と呼びます。
義務教育が始まる年齢は、州によって5歳から7歳と開きがある上に、学年の区切り日が日本のような全国一律(4月1日)ではなく、ミズーリ州の8月1日からコネチカット州の1月1日まで5ヶ月もの開きがあります。
義務教育の年限は地域によって異なりますが、50州のうち16歳までが30州、17歳までが9州、18歳までが11州となっています。
〇イギリス
義務教育は16歳までで、プライマリースクール( 5~11歳)とセカンダリースクール(11~16歳)に分かれます。
義務教育が終了すると、中等教育検定試験(GCSE)を受験し、その結果により高等教育に進学できるかが決まります。この試験で結果が出せた生徒は、6th Formという日本の高校に相当する中等教育課程に進学します。
〇ドイツ
ドイツでは、6歳になったら基礎学校(小学校)へ通います。多くの州で、基礎学校は4年制となっており、基礎学校を卒業したら、「3分岐型教育」と呼ばれる進路へ進みます。
これは、基幹学校、実科学校、ギムナジウムの3つの進路に分かれているのですが、あえて3つの学校を日本の教育制度に例えるなら、「5年で卒業の基幹学校=義務教育修了」、「就職・職業訓練コース6年で卒業の実科学校=中級修了、専門学校進学コース」、「8、9年で卒業するギムナジウム=上級終了、大学進学コース」でしょう。
〇オーストラリア
1~6年生までがプライマリー・スクール、7~12年生までが日本の中高を一緒にしたセカンダリー・スクールという構成になっています。通常10年生までが義務教育になり、大学進学希望者は11・12年生まで進みます。
〇ニュージーランド
義務教育課程は、プライマリースクール(5~10歳)、インターミディエイト・スクール(11~12歳)及びセカンダリー・スクール(13~17歳)の3年目までです。
セカンダリー・スクールの残り2年は大学進学準備として大学で希望する分野の勉強をします。 ニュージーランドには約400校のセカンダリー・スクールがあり、そのほとんどが公立です。私立は宗教系の学校が主流で、伝統を重んじた教育方針が見られます。
☑ 教育費が安い
欧米の公立の教育費は日本に比べて断然安く、教育費が全く必要のない国もあります。
イギリス、ドイツ、フランス、フィンランド、スウェーデンでは公立における高校までの義務教育期間は教育費が全くかかりません。ここでいう義務教育というのは“授業料”ではなく、教科書から鉛筆、ノート、給食代などの全てを含めた費用がタダという意味です。
ちなみに日本では子ども一人を大学まで進学させるのにかかる費用は公立校のみに進学した場合でも約1千万円、私立校に通わせる場合はその倍以上かかると言われています。
それに加え、日本はアメリカやイギリスに比べて奨学金制度が充実しておらず、日本では教育に占める公的支出が少ないのが特徴です。
☑ 世界の教育水準
アメリカやイギリスでは州や地域によって教育水準が大きく変わることから、住む場所によっては教育環境が左右されてしまう可能性が大いにあります。希望する学校の為に家を引っ越しをすることは、珍しくありません。
また、日本では考えられませんが、欧米では、義務教育期間であっても留年する可能性がありますし、素行の悪さや学業成績不振で退学になる生徒もいます。
日本は「集団のレベルアップ」を目指すのに対し、欧米では「実力・可能性がある子どもに高等教育を受けさせる」という、選別を前提とした教育を行っています。
☑ 日本教育の長所
よくいわれる日本の教育の欠点として、「詰め込み型教育」「個性を伸ばせない」「偏差値主義」などが挙げられ、それに比べて、欧米は「のびのびと学べる」「個性を尊重する」「偏差値という概念がない」と考えられ、日本の教育は、欧米からすれば「遅れている」ように見えるのかもしれません。
「親の収入による教育格差」などが叫ばれている日本ですが、日本の高校進学率は、通信制を含めると98%にも上り、ほとんどの子どもが、義務教育以上の教育を受けられています。これは、欧米に比べると、とても高い進学率です。
高校を卒業すれば、大学に進学する資格があることから、誰もが大学に行くチャンスを持っている、とも言え、そう考えると、日本の教育の平等さは、世界でもトップレベルとも言えるかもしれません。
偏差値でふるい分けることはあっても、望めば誰もが高等教育を受けられる環境は、日本の教育の強みともいえるでしょう。
もちろん、教育費の高さ、塾に頼りきりの現状、英語教育の質など、改善すべき点もたくさんありますが、日本の教育制度にも長所があり、それは世界に誇れるものであることも、忘れてはいけません。
☑ 性格形成に重要な教育
人間の性格基盤は、3歳までに作られ、その後、10歳頃までに形成、定着すると言われています。人間形成に重要な要素として考えれているものは、遺伝、環境、教育の3つです。
世界中の多くの学者の実験でも立証されていますが、一卵性双生児の双子を全く異なった環境で育てた場合、能力、才能、性格、どれも全く異なることが分かっています。
この実証結果から分かるように、先天的なものは素晴らしい環境と教育の上に花咲かせられるもので、環境と教育が人格形成にいかに重要であることは、顕著であります。
☑ まとめ
欧米教育の方が優れているというように聞こえるかもしれませんが、“チームプレーや協調性を育む”という意味では日本のほうが優れているかもしれません。
日本と欧州のどちらも一長一短ですが、学力を上げるという単純な方法ではなく、これからの日本人はどんな力をつけていくべきかを考え、もっと教育の根本的な意識の改革から始めるべきなのではないでしょうか。