ダムについて考える。
福島第一原発事故をきっかけに、様々な代替エネルギー案が検討されるようになってきました。そのうちの一つに、水力発電がありますが、これはダムを利用して作られているということをご存じでしょうか。今回は、この「ダム」についてご紹介致します。
☑ ダムとは。なぜダムをつくるのか。
ダムは、一般的には水の流れをせき止めたり、変えたりする建造物のことで、基礎地盤から堤の頂上までの高さが15m以上のものをダムといいます。
ダムが作られている主な目的のひとつは、「治水」です。大雨がふった時などに、川の水があふれたりしないように、川を流れる水の量を調整したりする役割があります。
二つ目の目的は、「利水」です。田んぼや畑などに水を送りとどけたり、人々が生活するための水を用意したりできます。
ダムがなければ、大雨で増えたたくさんの水を貯めておくことができなく、また川を流れる水の量を調整することもできなくなり、洪水を引き起こす可能性もあります。
反対に、雨がふらない日が続いた時には、川の水が減り、田畑に水がとどかなくなり、作物が作れなくなります。また、飲み水などの生活に必要な水もなくなり、川に住む魚などの生き物も生きていけなくなってしまう可能性もあります。
そして三つ目の目的は、「発電」です。ダムに貯めた水や、川を流れる水の力を使って電気を作りだします。
水力発電は、水を高いところから低いところに向かって流し、その水の勢いで大きな水車を回すことで電気を作り出します。水の勢いが強ければ強いほど作り出される電気の量が増える為、水の量が多く、高いところと低いところの落差が大きくなればなるほど、多くの電気を作ることができます。
☑ 日本のダム事情と世界のダム事情
日本には、約3,000ヵ所のダムがあります。いちばん多くダムがある都道府県は北海道で、また、一番大きなダムは、岐阜県にある徳山ダムです。
日本のダムの事業者は、政府直轄事業者、地方自治体、電気事業者、一部の民間企業ですが、ダムの建設認可や国庫補助の視点から考えると総体的には国が規制しているといえます。
☑ ダムの建設とダムの撤去について
なぜ、ダム計画の見直しや撤去が必要なのでしょうか。
それは、本来の川を取り戻すためです。不要なダムを撤去しないと水害が多発します。また、川の濁りが取れず、河川生態系への悪影響が改善されません。
ダムは、河川を分断して本来の流れを変え、上流からの土砂や有機物を堆積するものです。そのため、河川生態系を大きく変え、海岸浸食の主因ともなっています。
ダムは河川や河川敷、周辺の生物生息地を変化、消失させ、魚類をはじめとする動植物を絶滅の危機に追いやっています。
また、ダムに貯まった土砂を税金を使って人為的に海岸に運んで養浜(ようひん=人工的に海岸を造成すること)したり、ダムの中には、ほとんどが土砂で埋め尽くされ、安全管理のうえでも危機的な状況となっているものがあります。
このような問題を解決するための方法として、ダム撤去が市民団体から提案されています。
アメリカでは、川から撤去されたダムの数は500を越えているといわれます。
しかし、日本国内においては本格的なダム撤去の前例はまだありません。
ダム撤去には、世論の盛り上がりと事業者のダム撤去への決断が必要です。
たとえば、熊本県の荒瀬ダムに対して、周辺住民はかねてからダムによって洪水被害が拡大したのではないかと不信感を抱いており、旧坂本村内では撤去への要望が高まっていました。
2002年に村議会はダム撤去を求める誓願を熊本県に提出し、撤去問題がクローズアップされ、これを受け熊本県では2010年から2015年までの5年間で撤去することとしましたが、2008年、潮谷義子前知事に代わって就任した蒲島郁夫知事は、一転してダム撤去を凍結する方針を明らかにしました。
これに対し、地元市民グループなどから強い反発の声が出されました。紆余曲折はあったものの2008年に、荒瀬ダム撤去方針撤回が正式に表明されて、2012年度から撤去を始めることが決まりました。
ダム撤去のコストですが、荒瀬ダムの場合は、100億円程度といわれています。
☑ ダムの撤去が魚に与える影響
清流の指標魚とされるアユは、秋に川で産卵します。生まれたアユの稚魚は川を下り河口付近の海で育ち、春先に川を上り、中上流で成魚になります。
ダムを撤去すれば、ダムが阻止していたアユの移動が回復します。アユだけではなく、サケやウナギなどの魚類や、カニ、水生昆虫などの生き物は川を遡上流下するものが多く、ダムの撤去で自然の生物循環が戻ります。
ただし撤去の際にはダム上流部に堆積している土砂やヘドロが下流部に流出して環境破壊を誘発しないようにしなければなりません。
ダムの撤去で発生するコンクリートなどの廃材、堆積土砂を、どうのように処理処分するかは大きな課題です。
ダム撤去で川や自然が回復すれば、流域全体において釣りやカヌー、サーフィンなどレクリエーションのフィールドとしての環境も復元でき、地域経済にも寄与します。
☑ まとめ
日本は、世界的にみると雨が多く、年間を通じて水が豊かな国の為、水力発電に向いていることは事実です。
しかし、不要なダムを撤去しなければ、ダムに土砂が堆積し続け、やがて大きな水害をもたらし、また、流域全体の生態系が損なわれます。
ダムによるツケを先送りすることは、マイナス面を拡大するだけであり、こうしたコストは、現世代だけでなく、次世代以降の負担を組み入れて計算することが必要です。