Environment

風力発電のまとめ

2019/08/17


前回は火力発電についての記事をご紹介しましたが、その他のエネルギーとして、今後、日本においても本格的な普及が予想される風力発電があります。
今回は、風の力から電気が生まれる風力発電についてご紹介します。

☑ 風から電気を起こすしくみ
風力発電は、風力発電機と呼ばれる設備を使って発電します。
風力発電機の上部に付いている「ブレード」と呼ばれる羽の部分に風が当たると、「ブレード」が回転し、その回転が「動力伝達軸」を通じて「ナセル」と呼ばれる装置の中に伝わります。
「ナセル」の中では、まず「増速機」という機械が、ギアを使って回転数を増やし、回転速度を速めます。その回転を「発電機」で電気に変換しているのです。
発電された電気は「塔体」の中を通って「トランス(変圧器)」で昇圧され、送電線(または配電線)を通って届けられます。
ちなみに「ナセル」の中には「ブレーキ装置」も付いています。どうしてわざわざブレーキが付いているのかというと、台風や点検の時には、危険なのでブレードの回転を止める必要があるためです。

☑ どんな場所で発電しているの?
風力発電は発電量が風に左右されるため、「風況(風の吹き方)」のよいところに設置されます。同じ場所でも、夏場は風がほとんど吹かないなど、季節によって変化があるため、風力発電所の建設にあたっては、年間を通した風況を考慮する必要があります。
日本では、風力発電所は北海道や東北、九州に多く、多くの場合海沿いや山の上などに設置されています。
最近は、もっとも風況が安定していて、巨大な風車が建設可能な洋上での風力発電が注目をあびています。

☑ 大きさはどのくらい?
風力発電機の高さは、地上に建設される場合でも、高いものでは100m以上の大きさになるものもあります。
風を受ける位置が高いほど、風力発電機は上空で吹いている強い風を受けることができるので、発電効率がよくなります。
上部に付いている羽の部分「ブレード」の直径はおよそ74mとなり、飛行機(ボーイング程)の大きさのものが回転していることになります。
また、洋上風力発電用の発電機はさらに大きく、180mを超える発電機もつくられるようになりました。

☑ どのくらい発電できるの?
例えば「ウインドファーム浜田」に設置される風力発電機では、1基が発電できる発電容量は定格出力で1.67MWです。この発電機1基が1年間フル稼働ができれば、年間約1,463万kWhの電力を生み出すことができます。
ただ、どんな場所でも、風は吹いたり吹かなかったり、また、強さも千差万別なため、発電できる量には制限があります。この、発電設備の定格出力に対する年間通じた発電量の割合を設備利用率といいます。
「ウインドファーム浜田」では、年間20%の設備利用率を見込んでおり、設備利用率が20%とすると、発電機1機あたり年間約293万kWhの電力を生み出し、一般家庭およそ813世帯分が利用する年間使用電力をまかなうことができます。
「ウインドファーム浜田」では、これが29基建設されますので、年間約8500万kWh、一般家庭およそ23,600世帯分の年間使用電力量を生み出します。

☑ メリットとデメリット
風力発電は、一定の風速があれば、昼夜を問わず電力を生み出してくれる発電方法です。
火力発電や原子力発電のように、燃料を必要としないので、排気ガスやCO2、燃えかす、使用済み燃料の処理なども発生しません。地球環境にやさしい安全でクリーンなエネルギーとして普及が進んでいます。
一方、風が吹かないとき、風が弱すぎるとき、そして台風などの風が強すぎて危険なときには発電することができないため、電力を毎日一定量供給するという「安定性」の面では弱い部分があります。
また、世界では風力発電の発電コストは急速に低下していますが、日本の発電コストは高止まっています。系統制約、環境アセスメントの迅速化、地元調整等の開発段階での高い調整コストなども課題です。

☑ ヨーロッパでは洋上風力発電が直近5年間で3倍以上に増加中
海における洋上風力発電は、陸上よりも一般的に風況が良く、船舶で輸送するため道路輸送にくらべて制約が小さく、設備建設のための部材が運びやすいなどの利点があります。
洋上風力発電には、風車の基礎を海底に固定する「着床式」と、海上に風車を浮かべる「浮体式」の2種類があります。
特に近年のヨーロッパでは、洋上風力発電の導入量が年に1,000~3,000MWという規模で増えるなど、急激に拡大しています。2017年には累計導入量が15,780MWに達し、2012年の5,000MWから3倍以上に増加しました。
背景には、いくつかの要因がありますが、まず、北海などのヨーロッパの海は「風況」つまり風の状況が良く、また海岸から100kmにわたって水深20~40mの遠浅の地形が続くなど自然環境に恵まれていることです。
加えて、2000年代後半以降、洋上風力発電についてのルール整備が進められ、設置のための調査や、事業を実施する区域の選定、発電した後に電気を流す電力系統の確保などについて政府の役割が増しており、これによって事業者の開発リスクが低減されてきたことも大きな要因です。
さらに、入札がおこなわれ、事業者間の競争が促されることで、価格が急速に低下している点も重要です。関連産業も成熟し、建築工法の改良による建設期間の短縮、大型風車の開発、基地港湾における産業集積の進展なども、コスト低下に役立っています。
このような要因から、近年では入札での落札価格がkWhあたり10円未満の案件や、補助金ゼロで事業を実施できる案件が現れるなど、ヨーロッパでは洋上風力発電の急速な導入拡大と大幅なコスト低下が実現しているのです。

☑ 日本における洋上風力発電の現状は?どんな課題がある?
日本における洋上風力発電の導入量は約2万kW(20MW)で、すべて国による実証事業です。もともと日本は、海底の地形が急に深くなる形状で、台風や地震も多いなど自然環境が厳しいことから、こうした環境への適応やコスト削減を図るための実証事業がおこなわれてきました。
現在は、洋上風力発電の設置がもたらす影響を調べる「環境アセスメント」の手続き中の案件が約540万kW(5,400MW)に達するなど、企業が積極的に事業参入をおこなうフェーズに入っています。
欧米諸国に比べると導入が遅れているものの、2000年以降導入件数は急激に増え、2016年度末で2,203基、累積設備容量は335.7万kWまで増加しています。

しかし、以下の課題が明らかになってきており、事業の大きなハードルとなっています。
課題① 一般海域を長期で占用することについての統一的なルールがない
海域のうち大半を占めるのは「一般海域」と呼ばれる区域ですが、一般海域には、長期にわたって海域を独占して利用すること、つまり「占用」に関する統一されたルールがありません。各都道府県は条例により「占用許可」を出すことができますが、これは通常3~5年という短期間の許可となっており、また都道府県によって異なる運用がなされています。しかしこれでは、洋上風力発電事業者は中長期的な事業の見通しの予測が困難になり、資金調達が難しくなります。

課題② 先行利用者との調整に関わる枠組みが存在しない
海には、海運業や漁業など、先行して海を利用している事業者が多く存在します。しかしながら、洋上風力発電事業者から見れば、誰がどのように先行利用をおこなっているかの把握が難しく、また先行利用者から見れば、発電事業者に適切に意見を伝える方法がありませんでした。つまり、意見を調整するための枠組みが整っておらず、予期できない事業リスクと膨大な調整コストが事業実施の大きなハードルとなっています。

☑ まとめ
今後、日本でも洋上風力発電を増やしていくためには、ヨーロッパの取り組みも参考にしながら、これらの課題への対応策を組み合わせた導入促進策を進めていく必要があります。
洋上風力発電を促進することは、周囲を海に囲まれた日本にとって、きわめて重要です。温暖化対策という観点はもちろんのこと、大規模開発によって国民負担の抑制と再エネの大量導入を実現できるほか、関連産業への波及効果や、地元産業に良い影響をあたえる可能性もあります。
今後の法律の成立によりさまざまな課題が解決されることで、洋上風力発電の利活用が進むことが期待されているのです。

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