ホテル泊から民泊へ、その違いを比較! ~お客様からゲストになると~
観光庁によると、日本国内の延べ宿泊者数は平成21年までは3億人泊程度で、そのうち外国人宿泊者数は、6%~7%に過ぎない数字でした。 ところが、平成28年には5億人に達し、外国人宿泊者数も15%まで増え680万人泊を超えるといった増加傾向が、現在も続いています。
外国人宿泊者数が増えると、客室稼働率が高くなるのは当たり前で、宿泊施設不足の問題は今後も続きます。そのようなニーズに対応する傾向として、最近話題になっているのが「民泊」です。
今回は、あまり馴染みのない「民泊」についてご紹介します。
☑ 民宿、民泊の違いは?
民宿は、旅館業法上の定義は特にありませんが、簡易宿所営業に該当するとされ、ホテル・旅館・下宿以外で宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を指します。比較的小規模な家族経営で、自宅を宿泊客用に拡張した形態が多いのが民宿の特徴です。
民宿は誰もが知っている通り、無料で泊まれる場所ではないですし、業として宿泊用の設備を用意している建物で、普通の民家ではありません。現代の民宿では、経営する家族と交流することは少なく、宿所として存在します。
言葉のイメージとしては、民泊が「泊」なので、泊まる側が宿泊に民家を利用すること、民宿は「宿」なので、泊める側が宿泊用に用意する宿(民家とは限らない)です。
営利目的である民宿は、民泊で使われる民家と違い、旅館業法の規制を受けます。しかし、宿泊料を受け取る営業が常態化しておらず、たまたま民泊したい希望者が現れて、泊めた代わりに謝礼(宿泊料)を受け取ったとしても、それは営業に該当しないので、旅館業法の規制は受けません。
このように、民泊と民宿は、営業行為であるかどうかが1つの線引きです。
広く民宿と認知されない普通の民家でも、宿泊料を受け取る目的で、常に部屋と寝具を用意していれば、それは立派な民宿で旅館業経営となります。
☑ 自治体すら規制を受けた例もある
2010年、田舎暮らしを体験してもらう定住促進事業として、佐賀市が所有する住宅を提供していたところ、県側から旅館業に該当するとの指摘を受けたケースがありました。
このケースでは、光熱費等の実費負担で、定住目的の田舎体験をしてもらう事業でしたが、光熱費等の実費を受け取るのは、旅館業法に抵触すると県に判断されました。 対象の住宅は、当然ながら民宿のような旅館業法上の要件を満たさず、結局佐賀市が折れる形となって、利用料を受け取らない方針に変更を余儀なくされます。
ケーススタディとして重要なのは、佐賀市のように公的機関が行い、営利目的ではないことが明らかでも、宿泊料に類似する料金を受け取るだけで、旅館業法の規制を免れないということです。
宿泊料の多少ではなく、宿泊料相当の金銭を受け取るかどうかで判断されます。 自治体が用意する田舎体験用の空き家などで、賃貸契約の「家賃」にしている例が多いのは、こうした旅館業法との関連があるためです。
☑ ホテル泊と民泊
日本の宿泊者は既に7人に1人が外国人で、今後も増え続けることが予想されますから、観光シーズンに限らず宿泊施設の予約を取りづらい状況が、今のままでは日常化していくと考えられます。
必然的に宿泊施設の稼働率も全体的に上がり、平成27年の客室稼働率は、全体で63.7%、中でもビジネスホテルが78.1%、シティホテルが82.2%と非常に高くなっています。これは日本全国の数値ですので、観光地はさらに高くなるでしょう。
ホテルを新たに建設するには、時間もコストも相当かかります。急増する外国人観光客と客室数不足で注目されているのが、ビジネスとしての民泊です。
☑ 民泊ビジネスの将来的需要
民泊ビジネスの集客はAirbnbなど民泊提供サイトに頼り、手数料だけ支払う低コストの運営です。 物件は自分で所有しなくても、賃貸して転貸することで、所有コストもなく始められる点が大きく、Airbnbを使って収益を上げている事例は多数あります。
例えば、賃貸で月10万円の部屋を、1泊5,000円で貸しても、8割稼働で十分に採算が合いますし、1万円で貸すことができれば10日で元が取れます。 民泊の需要がある限りは、低コスト高利回りの新しいビジネスモデルです。
☑ 民泊ビジネスの利点
ホテルを1室借りる費用に比べると、民泊の利用料はかなり安く、日本のホテルは料金が高いと言われているので、外国人旅行者にとってもありがたい存在です。 無論、国内旅行者にもニーズはあり、民泊ビジネスは今のところ順調だと言います。
今後、東京オリンピックを見据えたホテル業界の資本投入で、客室数は増えていくと見込まれますが、ホテルは今日建設して次の日できるものではありません。 その点、民泊提供サイトに登録されている物件は、状態や利用方法が異なるとはいえ、客室不足を補う存在であることから、政府も無視できなくなりました。
☑ 懸念されているトラブルや問題
民泊の利用料においては、Airbnbなどの仲介サービス提供者が担当するため、支払いトラブルの可能性は小さいと言えます。 しかし、民泊で問題とされているのが、周辺住民の不安感で、見たこともない人が、入れ替わり立ち替わりで一室から出入りしている状況は、特に集合住宅ならよく思わないのは確かでしょう。
賃貸物件は、所有者が転貸を許していない限り、居住用として賃貸借契約されるのが普通で、転貸トラブルもよく聞く話ですが、民泊の場合は、賃借人よりもマナー低下が心配されます。
しかも、マンションの共用部分は、区分所有者の共有持分ですから、民泊の利用者に使われることに抵抗ある人がいて当然です。 高級タワーマンションの一室を購入し、豪華な部屋と設備の提供で運用しているケースもあるようで、実際、高所得層のモラルを信じて購入した所有者から不満が出ています。
現に、Airbnbへの登録を、管理規約レベルで禁止するマンションも出始めました。 不安感を拭いされない既存住民が多い中、この動きは拡大していくと思われます。
周辺住民からのクレームや通報も予想できますし、そうなると所有者の管理責任が問われかねません。 ましてや、貸した部屋で不法行為が行われたり、不法滞在に使われていたりなど、「貸しただけなので自分には関係ない」で済むかどうかです。
☑ まとめ
民泊を利用することにより、多くの宿泊客を取り入れ、観光業に収益をもらたらす利点があることは、日本の観光業に大きな変革をもたらすでしょう。
しかし、世界中の不特定多数が利用できる状況下で、すべてが平穏な宿泊目的の観光客であるかどうか、それは予測不可能です。民泊と称して空き家・空き部屋を借り、犯罪行為が行われる可能性も否定できません。 顔の見えないインターネットでの利用だけに、誰が使うかも何が起こるかも予測の範囲内に収まらないのが民泊ビジネスです。
貸す側、借りる側、両者ともに、民泊が持つ利点、及び潜在的な懸念についてもよく考慮しながら利用すべきではないでしょうか。