原発を理解する
2018/11/14
東日本大震災後、毎日のように福島第一原発爆発事故の報道が流され、そして今日では、日本が現在抱えている大きな社会問題となっている原発ですが、身近にあるものではないので、いまいち良く理解できていない方も多いでしょう。
そこで今回は、原発について考えてみる記事をご紹介します。
☑ 原子力発電とは
この宇宙に存在するものは、全て原子(げんし)から出来ています。人間の体も原子が集まって出来ているのです。
原子とはものすごく小さいもので、原子を拡大して見てみると、原子核(げんしかく)の周囲を、電子(でんし)が回っています。原子核は、陽子〈ようし〉と中性子〈ちゅうせいし〉がくっついてできています。
通常、この原子は非常に安定しているものですが、原子力発電に使われる「ウラン」や「プルトニウム」はそうではなく、外から原子核に中性子が飛び込むと、この中性子を捕捉した原子が2つ以上に分裂してしまうことがあります。
この分裂の際に大きな熱が発生し、この熱を利用したのが原子力発電です。
☑ 核分裂反応を制御する方法
核分裂反応は、連鎖的に起きてしまいますが、原子力発電においては核分裂反応が制御できなければまずいわけです。開始、持続(臨界状態)、終了とコントロールする必要があります。
核分裂反応の制御は、原子炉で抑えています。核分裂で加熱された原子炉はものすごい高熱ですが、冷却水を使用して制御しています。この冷却水を使わなければ、この装置は壊れてしまいます。
また、冷却水の他に、制御棒というものもあり、その名の通り核分裂を制御します。
制御棒は、核分裂で発生した中性子を吸収することで制御しています。
☑ 福島第一原発事故はなぜ起きたのか?
福島の原発事故の原因は、炉心溶融(メルトダウン)です。
原子力発電により発生した熱の影響で加熱された原子炉の冷却ができなくなったのです。
その原因は地震や津波による土砂崩れ、停電などによる原子炉の停止です。非常冷却装置も壊れたのです。その結果、原子炉にたまった熱が制御棒などの燃料集合体を溶かしてしまったのです。これをメルトダウンといいます。
制御棒が溶解したのでこの時点で核分裂をとめることはできませんでした。
そのため冷却水が蒸発し、大気中に放射性物質が広がりました。
☑ 原子力発電のメリット、デメリットは?
●原子力発電のメリット
1.安定した大量の電気の供給ができる
ただし、これは原子炉でコントロールできることが必須条件です。
2.化石燃料に依存しない
石油や石炭などをつかう必要がないのです。
因みに、火力発電では、石油や石炭などの化石燃料を燃やし水を沸騰させて蒸気ダ―ビンを回転させることで発電しています。つまり、原子力発電と同じです。
3.発電時に二酸化炭素co2の排出量がほとんどない
これは、火力発電と異なり燃やす必要がないからです。
4.コストが安い
あくまで火力発電に比べるとですが、燃料費が抑えられるためコストが安くなります。
●原子力発電のデメリット
1.放射能汚染のリスクがある
今まで安全といわれていましたが、チェルノブイリ原子力発電所事故や福島第一原子力発電所事故でその危険性が顕になりました。
2.破棄する際にコストがかかる
これだけの設備を処理するのにものすごいコストがかかります。
3.国内でウランが入手できない
ウラン自体があと50~80年で尽きるだろうといわれています。
4.兵器に転用できる可能性がある
原子力発電所では核分裂を利用するため、核兵器への転用というリスクが存在します。たとえば天然ウランから核燃料を作る際に発生する劣化ウランは、劣化ウラン弾として使うことができます。また、原発そのものや核廃棄物処理施設への外部からの攻撃(テロなど)によって、多大な被害を被る可能性もあります。
☑ 世界の原子力発電
全世界見ると400以上もの原子炉が稼働されています。また、現在も新設が進められているものも少なくありません。世界で最も多くの原子力発電所を持っているのはアメリカで、次いでフランス・日本・ロシアと続きます。
アメリカ・日本・ロシアは原子力発電の割合が総発電量の15%~25%ほどですが、フランスはなんと75%以上にもなります。
現在世界には原発推進の国と反対の国がありますので、簡単にまとめてみました。
●原子力推進の国
エネルギー政策「国際原子力パートナーシップ」に参加している国、もしくは参加を表明している国が主に該当します。日本・アメリカ・フランス・ロシアの他、アジアでは中国や韓国、欧米ではカナダやイギリス・ブルガリア・オーストラリアなどが挙げられます。
●原子力廃止の国
廃止の方向に最も進んでいるのはドイツです。現時点で既に17あるうちの7つを廃止していて、2022年までには17全てを廃止すると発表しています。スイスも2034年までに全ての原発を廃止すると決めています。イタリア・スウェーデンも廃止の方向に進んでる国です。
☑ 東日本大震災前、震災後の原発観念
●クリーンエネルギーとしての原発への期待(東日本大震災前)
2000年前後には、1997年に「京都議定書」が採択されるなど、世界全体で、地球温暖化に対する問題意識が広まり始めます。
温室効果ガスの排出源として大きな割合を占める発電分野についても、排出量を削減する機運が高まり、温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギーとしての原発にも、注目が集まり、世界各国で、原発の新設計画が増加することとなりました。
日本でも、2010年に策定された「第三次エネルギー基本計画」において、「2030年に、原子力発電比率50%超を目指す」と記載されました。
●福島第一原発事故の反省とエネルギー政策の再構築(東日本大震災後)
こうした中、2011年、東日本大震災にともなう東京電力・福島第一原発の事故が発生し、深刻な被害をもたらすことになりました。
政府と原子力に関する事業者は、いわゆる「安全神話」におちいって、じゅうぶんな過酷事故への対応ができず、このような悲惨な事態を防ぐことができませんでした。
このような反省に立って、政府は、福島の復興・再生を全力で成し遂げ、震災前に描いてきたエネルギー戦略を白紙から見直すことを出発点とし、2014年には、「第四次エネルギー基本計画」を閣議決定しました。
同計画の中で、「原発依存度については、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電の高効率化などにより、可能な限り低減させる」と明記されました。
現在、日本では、福島第一原発の事故からの反省をもとに、「原発依存度を可能な限り低減すること」「安全を最優先した上で再稼動する」という2つの方針を掲げた上で、原子力の利用にあたっています。
☑ 原発の代替エネルギーとは?
エネルギー調査会社のブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンス(BNEF)が、2040年までの世界のエネルギー見通しを発表しました。
BNEFによれば、今後世界全体で発電部門に10兆2000億ドルが投資されますが、うち60%が太陽光と風力に投じられる予定です。2040年には、世界の発電設備のうち48%がこの二つになり、発電量も合計で34%(現在は5%)になります。
「電気と言えば太陽光と風力」の時代に入るわけです。
2040年の国別の「太陽光+風力」の電力割合は、ドイツ61%、英国50%、フランス46%、そして日本も30%と予想されています。
現在のフランスは原子力発電は75%を占めており、日本では太陽光発電量が4.4%、風力は0.8%くらいと小さいので、この両国がそこまで変わるのか、疑問とも思えるほどの高い数字ですが、太陽光の発電コストは、すでにドイツ、オーストラリア、米国、スペイン、イタリアで石炭火力と同等となっており、今後もどんどん安くなると予測されます。
これによって先進国では石炭火力が駆逐され、欧州では2040年までに石炭使用量は87%も減るとみられています。
世界の発電分野からの二酸化炭素(CO2)排出量も2026年にピークを迎え、その後は微減状態になる予測です。
BNEFでは、今後、2023年には原子力による発電はピークの14%に上った後は、新規の建設もできないので、2030年には10%に減り、2040年には1%とほぼ消えることとなります。
日本の将来像での最大の特徴は、石炭火力発電の多さです。現状でも30%と多いのに加え、BNEFの予測では、26年には41%に跳ね上がり、30年にも38%、40年でも30%超を保つとみています。
福島原発事故以降、日本では地震と原発事故で多くの発電所が壊れたり、止まったりしましたが、その時期を、老朽化した石油火力を動かし、天然ガス火力の稼働を上げ、節電で電力需要を減らして乗り切りました。
事故以降、ほぼ原発なしで日本社会は動いてきていますが、政府は今後、できるだけ多くの原発を再稼働させ、大量の石炭火力を新設しようとしています。
石炭火力が増える今の政策のままでは、日本がパリ協定で申告している30年の削減目標達成は遅れると、BNEFは指摘しています。
BNEFは「OECD諸国の中では、日本と韓国のみが長期的に石炭火力への依存を高めている」とも言っていました。しかし、韓国では、新しく就任した大統領が「脱原発、石炭火力の削減」を言い始め、エネルギー政策大転換の兆しがみえます。また、台湾も脱原発を決めました。いずれも福島事故の影響を強く受けた転換です。
日本だけが「福島前」に戻ってはなりません。
☑ まとめ
あらゆる面で優れたエネルギー源はなく、資源の乏しい我が国にとって、電気料金のコスト、気候変動問題への対応、エネルギーの海外依存度を考え、現実的かつバランスの取れたエネルギーミックスを実現することが必要です。
日本がとるべき道は、石炭火力の建設を減らし、自然エネルギー導入への過剰なブレーキを外して、太陽光以外も増やすこと、そして日本が世界に表明している「50年に80%削減」をまじめに考えることではないでしょうか。