これが本当の不労所得!? ベーシックインカムって何だろう?
近年、世界各地でも話題に取り上げられているベーシックインカムですが、働かなくとも得られる収入源が導入されると、現存する社会保障はどのように扱われるのかといった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回はベーシックインカムの基本についてご紹介します。
☑ ベーシックインカムとは?
ベーシックインカムとは、「年齢や性別を問わず全ての国民に、無条件で、ある一定の現金を一律で定期的に付与する仕組み」です。
個人の職業や、収入、失業中であるか、在職しているかといったことは関係なく、すべての国民が衣食住において最低限の生活を営むことを保障することが目的とされています。
ベーシックインカムを導入するのであれば、コストを削減するために、失業保険・子育て支援・生活保護など数多くの制度は廃止されることになり、国民の生活の保障はベーシックインカムに一本化されるのです。
ベーシックインカムと社会主義の相違点は、社会主義体制では、他の人より多く働いてもその分は自分のものにはならず収入に差が生じることは認められていないのですが、一方、ベーシックインカムの場合は、衣食住に必要な最低限の収入に限っては皆平等でありながらも、自分の仕事によって得た収入は自分のものとなります。
☑ 注目すべき欧州での試験的導入
ベーシックインカムの試験的な導入はヨーロッパにおいて積極的に行われていますが、その最大の理由は、欧州諸国の社会保障の制度が複雑であること、多層的であるためです。
欧州においては、社会保障を受けている失業者は、低収入の仕事を得ると失業中に受けていた社会保障の恩恵を受けることができなくなり、気軽に仕事に就くことができない状態に陥ってしまいます。
このように欧州諸国は、失業者が再就職を躊躇せざるを得ない状況下に置かれているため、失業率がなかなか低減しないという問題が存在し、このような問題を解決する有力な手段としてベーシックインカムの導入が議論されるようになりました。
細かな社会保障を撤廃して、一定の金額を支給することで、たとえ低収入の仕事であっても失業者は職を得ようと考えます。そのため、失業率の低下が期待できるのです。
☑ ベーシックインカム導入国
試験的な導入ではありますが、フィンランドにおいては、2017年から国家レベルでの導入が行なわれています。ベーシックインカムの試験的導入は、地域で行われることが多く、国家全体で実施されることはありませんでした。したがって、フィンランドが世界初、国家レベルでの試験的導入を開始したことは大きな注目を集めています。
また、国家レベルではなく、アメリカのアラスカ州、オランダのユトレヒト、カリフォルニアのオークランドのように、地域レベルで本格的に導入している地域は存在します。
アラスカの事例については、詳しく後述しますが、この地域でベーシックインカムの導入が実現できた理由としては、石油産業が活発であり、そこから得られる利益が豊富なために、財源確保が比較的行いやすかったということが挙げられます。
これに加え、2017年の4月24日には、カナダのオンタリオ州で貧困層4000人に限って3年間ベーシックインカム制度を試験的に導入することが発表されました。その他、スコットランドのグラスゴーではベーシックインカムの導入が議論されています。
このように、多くの国や地域が少しずつベーシックインカムを導入する準備を進めています。
☑ 日本でのベーシックインカム導入の可能性は?
日本がベーシックインカムを導入する際に、最も問題となるのは「財源確保」です。
ベーシックインカムを導入する場合、数々の社会保障が廃止され、それらにかかっていた費用はベーシックインカムに回されます。しかし、既存の社会保障にかけていたコストのみでは到底賄いきれないということになり、財政面を考えると実現しにくい制度であると考えられるでしょう。
とはいえ、現在の日本の社会保障制度も複雑多岐にわたっている為、ベーシックインカムを導入することで、行政改革の点で大きな恩恵がもたらされる可能性もあります。
日本では年金や生活保護、介護、保育などの社会保障制度があり、それぞれの部門に非常に多くの職員が配置されているため、現在の日本の社会保障制度には莫大なコストがかけられていると言っても過言ではありません。これらの社会保障制度を廃止し、ベーシックインカムに費用を回した方がコストを有効に活用できるという考え方もあります。
しかしそれと同時に、ベーシックインカムの導入は、現存の社会保障制度に携わっている職員が職を失うことになるため、これらの職員からは大きな反発の動きが高まることが予測されます。
また、日本では未だに柔軟性のある労働市場が整えられていません。そのような状況の中でベーシックインカムの制度が導入されても、仕事のスキルアップは望めないままで、労働意欲の低下を招いてしまう恐れがあり、ベーシックインカムが日本でうまく機能するには労働市場を改革する必要があります。
労働市場に柔軟性が無いと、ベーシックインカムを導入しても、十分なメリットをもたらすことができないばかりか、かえって導入するデメリットが大きくなってしまうのです。
さらに、ベーシックインカムが導入されることによって、収入が減ってしまう、既得権益者の反対も受けるでしょう。例として年金受給者の場合を考えてみます。厚生年金の平均支給額はおよそ14万円です。しかし、仮に月10万円のベーシックインカムが導入されるとすると、毎月約4万も収入が減ってしまうこととなります。これほどに収入が減ってしまえば、ベーシックインカムの導入に否定的にならざるを得ません。したがって、ベーシックインカムを導入するためには、既得権益者に対する対応も検討しておく必要があるのです。
以上から、日本でベーシックインカムが導入するには、それ以前に財政の改革・労働市場の改革、既得権益者への対応について考える必要があります。日本において、現時点で即座にベーシックインカムを導入することは考えにくいものですが、導入に向けて周辺の制度を改革して行けば、ベーシックインカムを導入することができるでしょう。何年もかかる作業かもしれませんが、日本においてもベーシックインカムが導入される可能性は十分にあり得るのです。
☑ ベーシックインカムのメリットどデメリット
ベーシックインカムが導入されることで、もたらされるメリットは多く挙げられます。
生活してゆくのに最低限の収入があれば、母子家庭の方や賃金が少ない方、病気や年齢で働くことが困難な方がそれほど苦しまずに生活できる環境を作り出せます。少子化対策や残業問題なども解決され、単純に考えると、国から生活に必要な最低限の現金が支給されるのは夢のようなことです。
しかし、ベーシックインカムが導入されることで働かなくなる人が増えることが懸念されています。最低限の生活が保障されれば、仕事をしなくても済むと考える人が増えると、生産性にも支障が出ます。ベーシックインカムを導入した国の経済競争力自体が低下する恐れも否めません。
その一方で、労働意欲の高まるケースも予想されるため、働かない人とより一層仕事に力を入れる人の間で、意識・収入の格差が広がってしまう恐れがあるのです。このような二極化をどのようにして防ぐかという問題が残されているのです。
☑ まとめ
ベーシックインカムの実現について検討する際、多くの国が共通して抱える課題はやはり財源の問題です。日本においては、財源確保の問題や労働市場の問題など、導入までには時間がかかることが予想されます。しかし、各国が導入の検討を進める中、日本でもより一層議論の対象となることは間違いないでしょう。
また、ベーシックインカムの導入により、働かない人が増えることも懸念され、そのような課題を今後どのように対処していくかも必然となることでしょう。